農業農村整備事業と多面的機能

− 豊稔池 地域 −

空から見た豊稔池

空から見た豊稔池

香川県

 

1 豊稔池地域の歴史と農業

    (1)地域のあらましと歴史

    位置図 豊稔池は、香川県の西南端、愛媛県との県境に近い三豊郡大野原町田野々に位置し、二級河川柞田(くにた)川上流に築造され、柞田川左岸に広がる540ヘクタールの水田を潤しています。この豊稔池受益地域は、寛永20年(1643年)、近江の豪商、平田與一左衛門によって大野原が開墾された地域であります。また、これら地域は、平野面積に比べ、山地の流域が少ない本県特有の地形であり、しかも渓谷からの土砂流出によって形成された扇状地で、「がらく」と呼ばれる砂礫混じりの透水性の高い土地であります。

    炎天下での はねつるべ による水汲み 大正中頃から足踏みポンプが水汲に使われた

     

    このため、豊稔池が築造される以前は「月夜に焼ける」と言われ、水田のあちこちに井戸が掘られていたが、20日も雨がなければ池、井戸水は枯れ、「土瓶水(水を土瓶に入れ、稲株の一株毎に水を注ぐこと)」が行われていました。

    このような中、大正13年(1924年)の大干ばつによる農民決起を契機として新池(豊稔池)築造計画が持ち上がり、対象15年3月に着工し、3年8ヶ月という短期間で昭和4年3月に完成しました。

     

    流域及び受益地平面図 また、豊稔池と五郷ダムを主水源とするかんがい排水事業「柞田川地区」として、柞田川右岸の一部地域を含む受益面積 1,379haの用水改良事業を昭和43年度から49年度までの7年間に実施し、 老朽化した幹線用水路12,990mを改修するなど、農業用水の配水の効率化に努めました。

    レタスの出荷調整作業 さらに、本県島嶼部及び山間地域の8町を除く5市30町に及ぶ香川用水事業(昭和42〜昭和55年)の完成により吉野川の水が導入され、農業用水の供給が飛躍的に増大し、念願の適期適量の配水が可能となったことから、新たな水利秩序が確立されています。

    なお、これら農業用水の安定確保により県内初のほ場整備事業(受益面積 204ha)を実施した地域でもあります。   

     

     

    (2)地域の農業

豊稔池をはじめとするため池、香川用水の完成に伴う吉野川の導水の恩恵を受け、現在、これら地域は、ほ場整備の先進地として近代的な農業が営まれており、米、野菜、いちごやトマトなどのハウス園芸、果樹等を組み合わせた複合農業経営を中心とした生産性の高い集約型農業地域であります。

特にブランド名「らりるれレタス」として全国にその名を知られるレタスや玉ねぎは、東京市場や京阪神市場を中心に全国の市場へ出荷されており、本県の野菜の主産地を形成する西讃地域(観音寺市ほか9町)の中でも、その中核を成す地域であります。

2 農業農村整備事業への取り組み

    (1)県営防災ダム事業(防災ため池工事)豊稔池地区

    豊稔池は、築造後半世紀余りを経過し、昭和50年代後半には堤体にクラックが入り、漏水が目立つようになったことから、本格的な補修工事が必要となり、昭和61年に「ため池等整備事業」として採択されました。採択後、中国四国農政局における「県営ダム技術検討委員会」で工法等について種々検討される中、新しく制度化された農地防災ダム事業「防災ため池工事」に変更することとなり、昭和63年「防災ため池工事」として採択され、工事期間が僅か5か年間と短期間で平成5年に完成しました。

    また、合わせて豊稔池周辺の緑豊かな自然や水辺空間を活用した利活用保全施設整備工事を平成5年及び6年度の2か年間で実施しました。
    豊稔池地区概要図
    洪水時の越流状況
    洪水時の越流状況
    アーチ部の越流状況
    アーチ部の越流状況

    昭和初期の築造当時の状況 昭和初期の築造当時の状況
    工事完了後の放水状況 工事完了後の放水状況

    (2)県営かんがい排水事業 柞田川地区

     柞田川地区は、豊稔池(1,593千m)及び五郷ダム(農業用水貯水量1,850千m)を主水源とする観音寺市、大野原町、豊浜町の1市2町の受益面積1,379haの用水改良事業として、昭和43年度から49年度に実施しました。

    水源は大部分をため池に依存し、一部下流地域においては地下水をも利用するものの、常時干ばつに悩ませられ続けたことから、五郷ダムが建設されたことにより、旧来の水利慣行を是正するとともに、老朽化した既設水路を12,990m改修し、農業用水の安定供給の確保や多大な維持管理費の節減を図りました。

    (3)香川用水事業

香川用水は、吉野川水系の水資源の有効利用を目指し、吉野川総合開発計画の一環として計画されたものです。本地域には、吉野川の貴重な水が本県にその水面を初めて見せる阿讃導水トンネルの出口、三豊郡財田町の東西分水工を起点とする西部幹線水路(延長13km)を通じて導水されます。この香川用水の通水(昭和50年)によって農業用水の供給力は飛躍的に増大するなど、本地域の水事情は大幅に改善され、農家が夢に描いていた水管理が可能となり、地域内の用水管理は旧来の水利慣行を是正しつつ、合理的な水利秩序が築かれています。

3 多面的機能発揮のようす

    (1)多面的機能の分類

    国土の保全

    洪水防止

    豊稔池の改修に当たり、防災容量を付加することによって梅雨時や台風襲来時、下流地域の洪水を防止する洪水防止効果を発揮しています。

    自然環境の保全

    水質浄化

    豊稔池に流入する家庭排水や農業排水等について、農業集落排水施設の整備や生活排水浄化実践活動などソフト及びハードの両面から県、町、地域住民がスクラムを組み、水質浄化対策に取り組んでいます。

    良質な景観の形成

    県営防災ダム事業で石積アーチダムの景観を損なうことのないよう石積を採用するなど景観に配慮した整備を行った豊稔池を核に、周辺の緑豊かな自然や水辺空間を活用し、一体的な環境整備を実施したことにより、良好な景観形成が図られています。

    保健休養

    豊稔池周辺の環境整備によって、地域住民はもとより、県内外の多くの人々に憩いの場を提供するとともに、親水水路の整備によって子供達の自然とのふれあいの場を提供し、心にやすらぎやうるおいを与える健康休養効果を発揮しています。

    情操教育

    景観、規模、歴史などに優れた豊稔池を活用し、ため池、農業用水路など土地改良施設が有する重要性を、次代を担う子供達に伝える「ふるさと探検隊」を毎年開催しています。また、親水水路の整備によって自然のすばらしさ、土地改良施設の大切さ等の意識の醸成が図られています。

     

     

    (2)多面的機能を取り組むこととなった背景

大野原町は、平成7年3月、「第3次大野原町長期振興計画(目標年度:平成17年度)」を策定し、町づくりの基本理念を「ロマンと活力に満ちた田園都市・大野原」と定め、自然や田園の町として発展してきた歴史を生かしながら、物心ともに豊かな地域づくりを目指しています。

この計画の中で、大野原町は豊かな緑、清らかな水、澄んだ空気など美しい自然に恵まれており、豊かな自然は後生に残すべき貴重な資源となっていることから、5つのまちづくりの基本目標の1つとして、「美しい自然と町発展の基礎づくり」を掲げ、「自然環境保全の強化」、「緑の推進」、「自然保護思想の普及」のために各種施策を計画的に推進することとしています。

このうち、「自然環境保全の強化」として、豊かな自然環境を生かした公園など町、土地改良区、地域住民がスクラムを組んだ環境整備、自然とのふれあいを通した自然保護思想の普及啓発に取り組んでいます。

 

4 多面的機能発揮への取り組みとくふう

 

防災ダム事業をはじめ、農業農村整備事業の推進に当たっては、(社)農村環境整備センターの診断を受け、自然環境や親水性など土地改良施設が有する多面的機能を重視した堤体の石積や親水水路、植生等を実施しています。

また、今後とも、行政、土地改良区、地域住民がスクラムを組み、多面的機能の発揮に向け、積極的に取り組むこととしております。

(1)県営防災ダム事業(利活用保全施設整備工事)豊稔池地区

石積ダムである豊稔池は、下流からの景観は中世北欧の古城を偲ばせる威容と風格があり、ため池王国香川の誇りでもあることから、堤体表面に石積みを実施しました。

また、ため池周辺は緑豊かな自然を保っていることから、これら緑空間や水辺空間を活用して、遊歩道や芝生広場、緑陰広場などを整備し、緑あふれる自然環境の保全や、地域住民のみならず、県内外の多くの人々に「憩いの場」を提供しています。

豊稔池遊水公園から眺めた下流側の景観
「豊稔池遊水公園から眺めた下流側の景観」

(2)県営ふるさと水と土保全事業 大野原地区

せせらぎ水路で水と遊ぶ子供たち
せせらぎ水路で水と遊ぶ子供たち

地域の調整池の役割を担う井関池は、豊稔池の下流にあり、堤には約1,000株のツツジが植栽されており、ツツジが満開の5月には多くの人が訪れるなど地域の憩いの場となっています。近年、兼業化や高齢化が進み、地域コミュニティが低下してきたことから、行政、土地改良区、地域住民が「井関池ふるさと会議」を設立し、地域住民の総意に基づき、やすらぎや憩いの場として、井関池の下流230mの用水路を親水水路とするため石積水路に整備し、地域環境の保全整備とともに、地域コミュニティの活性化を図っています。
水辺の教室

(3)ふるさと探検隊

 ため池や農業用用排水路、農道などの土地改良施設が有する大切な役割について、次代を担う子供たちに伝えるため、平成8年度から「ふるさと探検隊」を組織し、満濃池や豊稔池、香川用水記念公園などを訪れ、水の大切さ、土地改良施設の重要性や中山間地域の保全等について学ぶなどの啓発活動を毎年実施しています。

 

5 住民参加のようす

本地域の基幹施設である豊稔池、井関池並びに基幹的な用水路は、豊稔池土地改良区が維持管理を行っています。これに加え、大野原町では、「井関池ふるさと会議」など、住民と行政が一体となってため池堤体や用水路の除草、清掃等による環境の保全活動を行っております。

また、豊稔池の水質悪化を防ぐため、平成12年8月、県下で初めて、県、市町、土地改良区、地元自治会がスクラムを組み、農業集落排水施設の整備や生活排水浄化実践活動などの環境保全活動に積極的に取り組んでいます。

豊稔池の再生へ 大野原みずすまし運動推進会議が設立 四国新聞記事 豊稔池上流部での環境保全活動等の模式図

豊稔池ユル抜き行事と水神宮例祭

香川県下の主要なため池は、毎年ユル抜き行事の日程が決まっていますが、豊稔池は、一滴の水も無駄にしないという農家の強い意志から、下流に位置する井関池の貯水量との調整を図るため、毎年7月中旬から下旬に行われています。

大野原町の盛夏の到来を告げる風物詩となっているユル抜き行事の見物客も年々増えてきており、取水口を開けると貯水が勢い良く飛び出し、30、40m離れていても水しぶきがかかるなど壮観であります。(傘をさしている人もいますが、雨天のためではなく、水しぶき対策であります。)

ゆる抜き
この壮大な風物詩を楽しむため、県内はもとより、全国から多くの方が訪れる
ユル抜き行事に先立ち、水神宮例祭が行われ、水への敬虔な祈りと感謝が捧げられる
ユル抜き行事に先立ち、水神宮例祭が行われ、水への敬虔な祈りと感謝が捧げられる

6 取組みに対する評価

         

          水の大切さを学んだ「ふるさと探検隊」 記念写真

「ふるさと探検隊の」四国新聞記事